2021-01-01から1年間の記事一覧

そういえば、世界は雪

沈黙が面映ゆい声の湿度に雨を感じます呼吸とは自力救済です お返しするたばこのけむりそういえば雪でした(山田彩緒) 『世界は雪』 事務室を出た廊下を歩きながら夕日を眺める曲がり角まで連なる窓列の外には紺色の空と落日が木々と絡んで佇む灰の雲はまば…

宛先不明

三十六才になる男は若い娘に恋をする扉の前に突っ立ったままの恋をする ボーキサイトを原料とするアルミニウム製品はその先では規制対象となる自死や他害の恐れがある故だと聞いた規制の内側では他にも恋愛がご法度になる彼(/女)らを拘束する車椅子に関し…

みぞれの朝

みぞれの朝 食堂に蛍光灯がともるラジオ体操後 テレビがつけられる各々 意中の座席に腰かけるお前の定位置まえに 座るまだ来ないが テレビを観ながら待つ 時折窓の外をみる みぞれに混じる雪片が揺らめきながら 一直線に落ちてゆく 昨夜はずっと話しをしてい…

冬の空き地

自動車を使えば三秒で渡りきる橋その橋の下 川沿いに繁茂する緑草木伝いに小さな舗装路を進むと行き止まりに小型車二台分の空き地何ごとかやりきれない日には その空き地に車をとめて雨の過ぎるのを待つことが多かった ある冬の夕方 大雪が降り 寒さが厳しか…

チクタク チクタク

一人きりの時間は小ぶりな置時計と一緒にチクタク チクタク あなたの一人きりも多分時計と一緒にチクタク チクタク 部屋のなかを満ち足りているのです 恋をしているとき一人きりの時間をながく感じあなたと居られればチクタクなぞは 聞こえもしません 今 私…

初恋

静まり返った部屋に秒針とペンシルと君の声あの日の微笑みに報いるだけの力 夕焼けに問いかけるよう絞りだした声 きれいに忘れてしまうのだろういずれきれいに消えてしまうのだろう 細切れの映像に君だけがかまびすしい たよりない毎日にあの日と同じような…

起床時刻

早朝 本を片手に 窓際へペンと紙片も 伴い薄明の朝焼けは 美しい朝方の儀式に ペンは踊る ページは詠う 乞われて書いたわけではない仕事のわけでもない 気付くと頭は読み書くことに飢えて丸テーブルの汚れは紙に染みて作品の一部にした そのころ お前は 善人…

今日という日があることは

今日があること幾億年の暗黒その堆積の果てなのです――壇上構える教授の飛ばす泡の積もりをただじっと見ている カレーの昼後の新緑小雀はガラス向うから忙しく啼き 今の堆積と壇上構える教授の がなる指先とチョーク は共演中だ ドクトル・泡 ドクトル・チョ…

Baby I Love You

この愛おしい ひとり 声音に惹かれ 眼差しに射貫かれ 香気に誘われ 輪郭に心奪われ ふたりを 半ば妄狂的に 求道し始めた 叶わぬものと 知りつつも 胸に秘めた 電撃や 昔語りは いとも容易く ふたりのものだ 旅をしてみようか ふたりになるため それでもまだ…

この掌で

例えのない あなたの ぬくもり 窓辺に 悲しみを吐き捨て ぬるい夜風に 凭れる 昨日を細切れに 忘れても 遠くからは 像に成る 遠近の家 営むは 例えのない 煩わしさ 机上に 喜びを書き捨て 冷たい朝霧に 身震いする 今日であるだけの それだけで奮い立つもの …

詩を前に

落ち着いて歩を進める私に お前は何か言いたいのだろう 指先を絶えず擦り合わせ 声も出さずに口唇を動かしている 落ち着き払った今の私に お前の何かを指摘することはできない あの朝日の向こう側にある夜が お前に沈んでいるのだ 今のお前にかける言葉も見…