そういえば、世界は雪

沈黙が面映ゆい
声の湿度に雨を感じます
呼吸とは自力救済です

お返しするたばこのけむり
そういえば雪でした(山田彩緒)

 

『世界は雪』

 

事務室を出た
廊下を歩きながら夕日を眺める
曲がり角まで連なる窓列の外には
紺色の空と落日が木々と絡んで佇む
灰の雲はまばらで外気は澄んでいるようだ

出会い頭 廊下の角でぶつかりそうになった職員と
頭を下げて労いの挨拶をする
持っているペットボトルの水がたぷんと音をたてる

飼い犬が苦しむ夢を見て泣いていた夜に
あなたが起きていて話を聴いたこと
次の日の寝不足が辛かったが
少しだけ心が弾んでいたこと
思い出して微笑んでいる

愛と戦争の世界に生まれついて
仏国を目指す日々を説かれたりもするが

廊下から見た夕日が美しかったから
ぶつかりそうになりながら挨拶を交わしたから
ペットボトルの水がたぷんと言ったから
悲しい夢の夜あなたが傍にいたから

ここは仏国だと思う

今雪はずっと降り積もり
明日には根雪になるのではないかとラジオで囁かれる
庭先の裸木が冷たい雪に囲われて黙っている
青白い空が夕焼け色を見せない

しかし

きっとこの白く厳しい寒さの地にも
仏世界はあらわれる日はある

瞑目する
あなたの優しい声が聴こえる
耳傾けてうなずいている(山田真佐明)

 

―あなたが選ばなかったところに私はいます―(山田夫妻)