傘 / 詩ノオト

 傘  /  山田 彩緒

  

むらさきいろの

あなあきがさ

たっつんたっつん

ほほぬらす

どこぞへわすれた

こともなく

あめんひいっしょに

でかけたもんだ

ついぞあなぽこ

おおきくなって

そんでもふりふり

つれていく

むらさきのかさ

おらのすきないろ

おぼえてらったなは

おとうとがてれて

よこしてから

なんねんだろう

ばけがさになってけねか

むらさきいろのかさ

 

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 詩ノオト 夏から冬 / 山田真佐明

 

朝方、紅い横顔の頬をすべり落ちる汗。透明な悲しみ。峠の向うから圧し殺した声で、列をつくってやって来る。闇が朝を通り過ぎる声として。闇と光が混じり合って汗を蒸発する。

 

両手に持ちきれない疲労と感情。白いレースカーテンの向こう側にほほ笑む入道雲の切れ端。さ迷って歩き続けてきた過去。アルコールに酔いやすい身体。ペンとノートがあれば、清らかな明日へと帰ることができる。

 

汚い ありのまま

綺麗な 虚飾

 

言ってしまえば草原に恋する私の負けだ。

 

ため息が霧になる夜半だからって

恋は光の速さにはなれない。

 

遠くの岸壁から、夕は5時の汽笛。気圧は低く、寒気の気配に青い空は光を失う。冬と秋が同居した、夏を忘れた春のような。

詩ノオトより4篇(改)

10月9日
晴れた空、冷たく光る朝。気圏は日本の花巻の宿。
少しの本とノートとペンと。それさえあればよい。
秋の合図に手のひらから零れる、雫。
いつかどこかで失ったはずの祈りに
笑って語り掛ける、カフェオレ。

朝から夕、夕から夜へ。傾き沈む日射し。
そこに初恋の光でも射せば、黄昏る。

熟れた乳房に顔埋める。
生きていると確かめあった。
囁きが耳元を掠めて、あたたかな空気が包む。

10月29日
秋雨が部屋の窓をうつ。
喜びと同じ重さで焦りがあって
そのどちらもが今日の小雨の色で
心の襞に何か打ちつける。
考えず、感じず。そんなのは無理なことだ。

                  山田真佐明

軽石の声

軽石をつまみ上げた
黒と赤にわかれていた
誰かが色付けしたのだろう
―夜と夕やけみたい―
と姪がつぶやいた

夜ごと そのつぶやきが
軽石の鮮やかな色と
連れ立って
寝入りばなの夢に あらわれた

ある日 ひとりで
朝の色を探しに出かけた
姪と一緒に探しに出たとき
すぐに見出だせたものが
見つからない

小一時間ほど
広い野原を歩き回った

真っ青な四つ葉のクローバーを
見たような気がして
視線を戻した

取り上げると
青い空きビンの
かけらであった

曇り空から
透明の雨が滴り始めたので
急いで帰る支度をすると
姪の声がしたように感じて
背後を見た

木々の緑を小雀たちが舞っていた

青いビンのかけらを
もう一度取り上げた

ジャージのポケットに突っ込み
家まで走った



                   (山田真佐明)

愛と風ー貴方と私

迷いながら風をうけていた
草の根に花と茎の息吹だ
写真は土くれの底を
写し撮ることができない

すべてを持ち帰ることもできない
瓶に詰めることも
食むこともできない
そうではあるけれども
ときおり貴方にそれをねだったりする

困った顔の貴方は
私にねだることはあまりない
しかし 別の
持ち帰ることのできない
胸底に宿り続けているものを
ときおりねだる

そっと取り出してみせて差し上げる
高原の追い風のように疾く
大木の根のように逞しい
二人の誓いが果てまでつづくよう
祈りを捧げながら

戸惑いながらも
愛と風を笑顔に宿して
貴方と私は
みつめつづける

向き直って
海の向こうをまた
二人眺める



「山田夫妻(仮)による連詩(改)」

君の町 と 黙る

繰り返す
きみを愛しはじめたぼくを
またずっと繰り返す
きみがこの町に
訪うべき日々を約束して


「君の町」     山田彩緒

君の町から離れると
しばらくトンネルがつづく
点々と過ぎるライトに
君の横顔を見る
瞬間
君が笑ったことや
泣いたこと
おどけたこと
怒ったこと
すべてが私の頭に流れ込んでくる
合わせた肌の熱よりも
君のきもちの在り処を
探ろうとする私の目は
果たして正気に
見えただろうか
トンネルを抜けた

ゆきだ

根付かない
今日溶ける、ゆき

………

根づいたのは昨日とけたゆき
あしたがみえない部屋でも
きみの輪郭を追えば
黙っていられる


「黙る」      山田彩緒

つきのみえない
へやで
なにをかんがえているの
なげやりにならないでと
いいかけてはやめた
わたしがそばにいても
うんめいはかわらないとつきはなす
そのめにつきはみえようがない
二人歩んだ時を
刻むものもなく
言葉だったであろうものだけ
吸っては吐いている

yukihaze

『雪爆ぜ』
           山田真佐明

 

白と鼠の世界で
あなたの吐息を吸い込む

くちづけの味は
すこし塩辛かった

氷の世界でゆっくりあなたの裸を
撫でさする あたたかな陽ざし

柔らかな肉体の 白い部分や
つき出た盛り上がりが
かげと香りをまとい
私を容赦なく襲うようだ

知っているか
をんなのからだがなぜ丸いのかを
おとこのからだがごつごつしている理由を

今の私にわかることは
お互いにないものを求めたからだということ

雪の中で抱きしめあって
ぬくもりを確かめ合ってから
そっと雪のなかに解き放った吐息の残滓が
吹雪の中で爆ぜた気がした

新婚道中

『新婚道中』

             山田彩緒

 

それは青とも緑ともつかない
あなたが紛れ込んだ日々

外の顔を想うのです
私の知らないあなたは
きっとむつかしいお顔をして
ただいまの前に
何か買い物をなさるのでしょう
わたしへのおみやげは
その行為そのものであって
奥ゆかしくも愛しい
小さな甘味だったりするのです

海辺でひとかけらの貝を拾いました
いまはもう無いのだけれど
あなたと並んで歩いた冬を
忘れることはありません
褪せることもないでしょう

あなたとの日々が
あなたの居なかった日々が
まぶたの裏でふわふわと
青とも緑ともつかない様子で
かたちを変え
わたしを休ませます

わたしを愛してくださいますか
いまは約束してくださいますか

儚く美しいあなたのその世界を
わたしが爆ぜさせようとも