起床時刻

早朝 本を片手に 窓際へ
ペンと紙片も 伴い
薄明の朝焼けは 美しい
朝方の儀式に ペンは踊る ページは詠う

乞われて書いたわけではない
仕事のわけでもない

気付くと頭は読み書くことに飢えて
丸テーブルの汚れは紙に染みて
作品の一部にした

そのころ お前は 善人だった
今やお前は罪の意識であり
「況や悪人をや」の文句に縋る

午後に音楽を聴いていると
沢山の過誤を越え
たしかにここにいると識る

しかし今でも悔いは続く
蒲団に腰かけて
本を読み書きしているだけなのだ

今日という日があることは

今日があること
幾億年の暗黒
その堆積の果てなのです――
壇上構える教授の飛ばす
泡の積もりをただじっと
見ている

カレーの昼後の新緑
小雀はガラス向うから
忙しく啼き 今の堆積と
壇上構える教授の がなる
指先とチョーク は共演中だ

ドクトル・泡 ドクトル・チョークと
ただひとりノートに書き付け

そんなお前の暗黒時代はなかったか
訊ねられもしないのに
ここに記しておこうと思い

恥の多いことではあるが
今日という日があることは
幾何年かの暗黒
その堆積の果てであります――

 

Baby I Love You

この愛おしい ひとり

声音に惹かれ 眼差しに射貫かれ

香気に誘われ 輪郭に心奪われ

ふたりを 半ば妄狂的に 求道し始めた

叶わぬものと 知りつつも

 

胸に秘めた 電撃や 昔語りは

いとも容易く ふたりのものだ

 

旅をしてみようか

ふたりになるため

 

それでもまだひとりになるよりないと

遠い先のふたり目が 不通なることを理由に

 

だから今はこの逡巡を愛している

この掌で

例えのない あなたの ぬくもり

窓辺に 悲しみを吐き捨て

ぬるい夜風に 凭れる

昨日を細切れに 忘れても

遠くからは 像に成る

遠近の家 営むは

例えのない 煩わしさ

机上に 喜びを書き捨て

冷たい朝霧に 身震いする

今日であるだけの

それだけで奮い立つもの

 

この掌で

詩を前に

落ち着いて歩を進める私に お前は何か言いたいのだろう

指先を絶えず擦り合わせ 声も出さずに口唇を動かしている

落ち着き払った今の私に お前の何かを指摘することはできない

あの朝日の向こう側にある夜が お前に沈んでいるのだ

今のお前にかける言葉も見当たらない

ただ朝が来て 昼になって 夜に沈む それだけが

今こんなにも 輝かしく 胸を点くというだけだ